侵略者はトマト! 人類はこの恐怖に耐えられるのか――
数多くの映画作品の中で、宇宙人だの巨大隕石だの、多くの危機に見舞われてきた地球。
映画好きにとっては、10秒に1回くらい地球の危機が訪れているような気がしますが、そんな映画の中でも、最も異常な侵略として歴史に輝いている作品が、1978年に公開された『アタック・ザ・キラートマト』。
なんと、スーパーに並んでいるトマトが何の前触れもなく殺人トマトと化し、人類を侵略するために襲いかかるホラー映画です。
予算たったの900万円という、機材代だけですべてが消えそうな低予算の中、全人類を巻き込んで行われるトマトの大侵略とは…!?
殺人トマト対人類の結末とは…!?
この映画の中に入れることすら失礼な最低クラスの侵略映画が公開された時、人類はいっそのこと侵略されてくれればすっきりすると思えるほどの衝撃を味わったのです。
撮影者、ほとんど親戚!!
900万円という低予算で作られたこの映画は、スタッフを集めるお金もなかったために、撮影スタッフをほとんど親戚でまかなうという、とんでもない離れ技を成し遂げています。
このため、スタッフロールは同じ苗字の人ばかりが並ぶという異様な光景に。
更にホラー映画としてトマト大侵略のシーンを撮影したかったものの、そんなシーンを撮るような予算はないスタッフ。
たまたま撮影中に本物のヘリコプターの墜落事故がカメラの中に入ったことから、「今の事故をトマトのしわざにしよう」と合理的に拝借し、ただの事故に『トマトのしわざ』というテロップを入れることで衝撃の侵略シーンにするというとんでもないアメリカン・スタイルが発揮されます。
さらに、家具屋さんがスポンサーになってくれたものの、家具を宣伝するだけのパワーがまったくなかったため、直球ストレート勝負で映画本編中にとつぜん家具のセール情報をテロップで流すことでスポンサーの期待に応えています。
このCMという概念を根本からひっくり返す新しい試みに、多くの映画ファンが「この映画は大丈夫なのか」と固唾をのみました。
そんな予想を裏切らず、この映画ではまったく大丈夫ではないストーリーが展開されるのです。
アメリカ政府が開発していた極秘トマトが殺人トマト化した!
平和に暮らしていた、いつものアメリカの街…。
そんな中、ひとりの女性が殺される殺人事件が起きたかと思いきや、殺害現場に広がっていたものは、血ではなくトマトジュースのようなものでした…!
なんと、アメリカ政府が開発していた極秘トマトが、何らかの原因によって殺人トマト化し、人々を襲い始めていたのです…!
極秘トマトってなに!?
なんで殺人化したの!?
そんな疑問にはまったく答えず、すぐに大統領や開発者が集まって緊急会議が開かれます。
しかしこの会議室、どう考えても民家の物置というレベルに狭く、テーブルとパイプ椅子を置いただけで身動きひとつとれないほどきゅうくつな状態。
大統領たちは、壁とパイプ椅子のすきまを必死で体をくぐらせながら入ってくることになります。こんな会議室あるか!!
ここから大統領たちは殺人トマトを撃破するための計画を練ることになりますが、民家の物置でパイプ椅子に座りながら考えただけあって、とてつもなくスケールが小さいものばかりが集まることになります。
人類最強ロボット(どう見ても人間の男)を使え!
大統領たちがまず最初に考えだしたのが、人類最強のロボットを使って殺人トマトを殲滅するというアイディア。
この人類最強のロボット、どこからどう見ても完全な人間であり、予算の都合なのか、ロボットに似せる努力を一切捨て去ったオレンジのジャージ姿で登場します。
この最強のロボットさえ完成すれば、すべてのトマトをあっというまに殲滅できる…!
しかし、ここまで来て「予算が足りなかったから片足しか強く出来なかった」と言い出す開発者。
まぁ片足でもいけるんじゃないか?と発進させてみたところ、片足の強烈なジャンプ力にバランスを崩し、窓に突っ込んだ瞬間死亡してしまいます。
なんの活躍もせず、屋内でただひとりで死んでしまった…!!
人類がこれで終わるわけにはいかない!!
大統領たちは更なる刺客を送り込むために奮闘します。
最強の女戦士、グレタ
トマトへの刺客として選ばれたのは、最強のオリンピック選手である女戦士グレタ。
ひごろからスナック感覚でプロテインを食べているという彼女は、まさにトマト退治にもうってつけの最強ハンター。
人類最強の彼女がとったトマト退治の作戦とは?
兵器による殲滅でしょうか?
それとも、罠を仕掛けての捕獲でしょうか?
しかし、彼女はそんな期待をどれも裏切り、草むらでプロテインを食べながらトマトを待つという意味不明な行動に出て視聴者を驚かせます。
なんでそんなとこでひとりで待ってるの!?
しかも何の武器も持たず無防備で!!
視聴者の心配通り、彼女はどう見てもきぐるみにしか見えないトマト1体に襲われ、まるでダメージが与えられそうにもないキックで応戦するも、あえなく死亡してしまうのです…。
いきなり人類最強が死んでしまった!?
このあと一体どうなるの!?
水の中なら任せろ!ウルトラダイバー・グレッグ
次に登場するのは、どんな水の中にでも潜れる天才ダイバー、グレッグ。
水の中が好きすぎて、地上でもボンベを手放さないという、ただ動きがにぶくなるだけの弱点を持っているグレッグは、水中では人類最強の力を発揮します。
こいつならば、殺人トマトたちをも相手にできるか!?
しかしこの天才ダイバーグレッグ、なにをどう勘違いしたのか、予算の都合なのか、公園の噴水にもぐるという意味不明な行動を取り始めます。
なぜ公園の噴水に!?
そんなところにトマトはいないし、5歳でも足が立つくらいに浅い噴水だし!!
この行動になにか意味があるのかと思わせますが、グレッグは本当にただ噴水に潜っただけで、これだけで映画の出番は終了します。
なんだったんだこの男!? もう潜ったまま出てこないで下さい!!
トマトに変装する男、サム
もはや大統領たちが集めてくる人材は、近所でもよりすぐりのザコを集めたとしか考えられないレベルの貧弱さであり、殺人トマトどころか親戚のおじさんさえ倒せるかどうかも怪しいような状態。
まったく次の人材に期待できないところで登場したのが、変装の名人・サム。
彼はなんと殺人トマトに変装することで、トマト語をもしゃべれるようになるというとつてもない男だったのです。
こんな貴重な男をなぜ出さなかったの!? そもそもトマト語ってなに!?
変装の名人であるサムは、あっというまにトマトに変装してしまいますが、どう考えてもきぐるみ感丸出し、トマトから足と手が生えただけの露骨な人間として姿を現します。
こんなやつがトマトを騙せるのか~??と思ってしまいますが、殺人トマト自体がきぐるみ丸出しなので、不思議とトマトとサムは気が合い、キャンプファイヤーの前で食事をしながら語らうほどの仲になります。
そんなに仲良くなれるの!?
こんな着ぐるみごときで、食事するような仲になれるの!?
もはや親友のように殺人トマトと気を許し合うサム。
この男に任せてよかった… ただのトマトから手足が生えた変質者じゃなかったんだ!!
しかしサムは、あまりにも殺人トマトに気を許しすぎた結果、どう考えても自宅としか思えないような振る舞いをするようになり、「ちょっとケチャップない~?」とトマトが絶対に言わないセリフを言ってしまったことから、人間であることがばれてしまいます。
トマトとの友情はつゆのように消え失せ、食べられてしまうサム。
期待を裏切らないザコっぷり。こんなザコを探すほうが難しいというのに、大統領たちは一体どこからこんなザコたちを集めてきたというのでしょうか?
もはや人類は終わってしまうのか…!?
大統領たちがおもしろ芸人で遊んでいる間にも、次々と人類を侵略していくトマトたち。
車が走っていれば、フロントガラスに次から次へと飛び込んでいき、車のガラスを真っ赤に染め上げてしまいます。
その様子はもはや、車に向かって人間がトマトを投げているとしか思えないような不自然な動きであり、侵略されているのか嫌がらせのビデオなのかわからなくなってしまうような光景。
スーパーマーケットでは、品物として並べられているトマトが暴れだすことになります。
人間の体の上をあちらこちらへと動きまわっていく殺人トマトたちの恐怖の殺人シーン!!
しかしこれまた、どう考えてもパラパラ漫画としか思えないような不自然な動きであり、なんのダメージがあるのかと錯覚してしまうような光景ですが、このパラパラ漫画殺人によって人間たちは次から次へと死んでしまうのです。
海の中でも決して油断はできず、海水浴をしている人間たちにトマトが襲いかかります。
そのトマトの動きはあたかも、ただトマトが浮かび上がっているだけのように見えますが、浮かぶトマトに触るだけで次々に死んでいく人間たち。
人間はこんなにもろかったのか…!!
都合よく死にすぎなんじゃないのか…!!
どうしようもなくなった大統領たちは、「ここで世論操作だ!!」とアメリカの切り札を持ち出すことにします。
広告代理店を使い、「トマトプランツはヌークリアプランツ(原子炉)より安全だろう」というダジャレで危機を乗り切ろうとしますが、そんな広告を見ている人間は誰もおらず、トマトの脅威はまったく取り除けないという当たり前の結末になります。
ロボットも、刺客も、世論操作も効果なく、人類すべての抵抗が無駄に…
このまま人類は殺人トマトに滅ぼされてしまうのか…!?
ヒットソングを聞いたらトマトが止まる!!
しかしここに来て捜査官のひとりが、アメリカのヒットソングを流したらトマトが止まるという決定的な弱点を見つけてしまいます。
あれほど荒れ狂っていたトマトが、ヒットソングを流した瞬間にただのスーパーで買ってきたトマトへと戻り、何の抵抗も示さなくなってしまうのです。
捜査官たちはヒットソングを流し続け、動きが止まったトマトたちをひたすら足で踏む、踏む、踏む!!
こんなことで退治できるなら、別に最初から踏んでいればよかったのでは?
自転車でもそこそこ退治できたのでは?
こうして殺人トマトをほぼ全滅させることができ、安堵する捜査官たち。
しかし、そんな捜査官たちの前に最後の最後、とんでもないピンチが待ち受けていたのです。
耳栓をしているトマトが登場!!
すべてのトマトにヒットソングを聞かせてつぶし、これで殺人トマトはこの世からいなくなったはずでした…。
しかし最後の最後、耳栓をしたトマトが登場し、捜査官たちが流すヒットソングを無効にしてしまうのです!!
まさか耳栓をされてしまうとは!? 人類最大のピンチ!!
てゆーーーかトマトの耳どこ!?
なんで耳栓してるの!?
もはや人類になすすべもなかったはずでしたが、ヒットソングが効かないのなら、ヒットソングの楽譜を見せてみようと試してみると、なぜかスラスラと楽譜が読めてしまったトマト、ぴたりと動きが止まってしまいます。
こうして、ただのきぐるみと化してしまった耳栓トマトも退治され、地球には平和が訪れたのでした…。
複数のお笑い芸人の遊びと、トマトが明らかに人間の手で転がされたり投げられたりするだけの侵略が終わり、視聴者の心に残ったのはむなしさだけ…。
この映画にはなぜかカルト的な人気があり、製作された続編には、若手時代のジョージ・クルーニーが登場しました。
このことを監督は誇りであると自慢していましたが、ジョージ・クルーニーは完全に忘れたい過去として認識しているらしく、現在に至るまですべてのコメントを拒否し続けています。