宮﨑駿が夢中になった、江戸川乱歩 『幽霊塔』の魅力

幽霊塔

宮崎駿が言う、『通俗文化の王道』。

前回のブックレビューで、次回は黒岩涙香の『幽霊塔』を紹介しますとお話しましたが、やっぱり、ぼくは江戸川乱歩が好きなので、乱歩版の紹介に変えさせていただきます(笑)。

この『乱歩版』などがよくわからないと思いますので、詳しく説明いたします。

『幽霊塔』は、もともと、A.M. ウィリアムスンが『灰色の女』として発表したものを、黒岩涙香が『幽霊塔』としてアレンジしたものです。

さらに、その『幽霊塔』を読んだ江戸川乱歩が深く感動し、いまの時代に合うように随所をリメイクしました。それが江戸川乱歩の『幽霊塔』で、乱歩の代表作にまでなっています。

さらにさらに、乱歩は自身が持つ『名探偵明智小五郎シリーズ』に、『幽霊塔』をアレンジした作品を盛り込みました。それが少年版幽霊塔ともいえる、『時計塔の秘密』です。

さらに、江戸川乱歩の『幽霊塔』に影響を受けた宮﨑駿は、『カリオストロの城』の源泉は『幽霊塔』だと言い、新装刊された『幽霊塔』の挿絵や漫画、絵コンテを執筆。今年になってジブリの森美術館に、自身が設計した『幽霊塔』の展示までしています。

また、有名ではありませんが、黒岩涙香の『幽霊塔』に影響を受けた多くの小説があり、昭和27年から45年にかけて、8作もの『幽霊塔』が執筆されています。中には少女探偵が主人公になっているものまであります。 

最近では、医龍の作者である乃木坂太郎が、黒岩涙香の『幽霊塔』をアレンジした『幽麗塔』という漫画作品を発表しています。

ここまで書いて、なにかお気づきになられたことはありませんか?

そう、この幽霊塔、誰もが自分で書きたくなるほど、とてつもなくおもしろいんです。

これほどビッグネームの作家の方々を、何度も揺り動かしてやまない、まさに『エンターテイメントの王道』といえる魅力があるのです。

幽霊塔、各バージョンの違い

幽霊塔は、それぞれの作家により、細かな変更点が存在します。

まず、A.M. ウィリアムスンの『灰色の女』が完全な原作で、基本的なストーリーはこれと同じものです。

黒岩涙香はそれを読み、『幽霊塔』として独自にアレンジ。舞台はロンドンなのに、登場人物が全員日本人という、わけの分からない状態になっています。これは明治時代によくある、雑なリメイクの典型でした。しかし、スリルあふれる部分の描写を多くするなどし、小説としておもしろみを増すよう工夫されています。

これに感銘を受けた江戸川乱歩が、「おもしろいけど古いな」ということで、舞台を完全に日本に移行、登場人物の心理描写をより深くし、随所にアレンジを加えたことで、今ぼくたちが夢中になっている『幽霊塔』が出来上がりました。

最後に、乃木坂太郎さんの漫画『幽麗塔』は、黒岩涙香や江戸川乱歩のエッセンスをうまく凝縮しながら、まったく新しい独自のアレンジが加えられています。絵も綺麗ですし、完結していますので、若い方にはもっとも読みやすい幽霊塔かも知れません。

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一番のおすすめは、やはり江戸川乱歩の『幽霊塔』で、まさに幽霊塔の完成品ともいえる素晴らしい作品に仕上がっています。

宮﨑駿は「幽霊塔を自分が映画にしたらこうする…」というような絵コンテまで書いているのですが、「もうさっさと映画にせーよ!!」と言いたい気持ちでいっぱいです。

宮﨑駿はもう映画は作らないそうですが、ジブリの森美術館に巨大な幽霊塔を展示するあたりから見ても、相当に心奪われていることは間違いありません。

ジブリで映画化されれば、誰もが気軽に見られる入口になるのですが…。

いつかジブリで、『幽霊塔』の映画が製作されることを期待しています。

幽霊塔のあらすじ

この幽霊塔は、探偵小説でありながら、冒険小説でもあります。

ですから残念ながら、多くのあらすじを書くことは出来ないのです。

だって、探偵小説で「こいつが犯人だ!」と知ってしまったり、冒険小説で「こんな冒険するよ」と知ってしまったら、もう全然おもしろくなくなるでしょう。

『猿の惑星』なんてぼく、みんながネタバレしすぎて、見る前から地球だって知ってたんですよ。

ターミネーターも、何も知らないまま、シュワちゃんが親指立てて沈んでいくところだけ知ってしまってましたから。

スターウォーズなんて見たこともないけど、ダース・ベイダーが主人公の父親だって知ってしまってますよ! 変わってるよね君の父親!

そんなわけで、『幽霊塔』については多くを語りませんが、主人公の青年が、莫大な財宝が隠されていると噂される謎の時計塔をめぐり、不思議な美女と出会い、謎めいた事件に巻き込まれていくという一大ミステリーです。

この『幽霊塔』のおもしろさは、読者がもっとも気持ちいいポイントを的確に押さえており、謎解きや、冒険や、多くのテイストをこの中で一度に味わうことが出来まるところです。

とにかく、時間がありましたら、まず『読んでみる』ことをおすすめします。

そして、ぜひ、多くの巨匠たちが楽しんだ幽霊塔に、あなたの新しい1ページを刻んで下さい。きっと素敵な体験になることと思います。

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