火星に行く計画があるのに、なぜ月に行かないのか
現在、世界では『火星探査機』や『火星への人類到達』に関する研究が推し進められています。
昔から、地球以外に人類が住める星は火星しかないと言われ、火星への探索や研究開発は宇宙開発の大きなテーマでもあります。
しかし、火星は地球からかなり遠い星であり、最高速の宇宙船を使ったとしても到着までに半年はかかる計算です。
一方、月はわずか38万キロという近さにあり、宇宙船なら半日もあれば到着します。
タクシーやトラックですら、壊れるまでに40万キロは走りますから、月は宇宙の中で最も手が届きやすい星だと言えます。ちなみに火星との距離は平均8,000万キロにもなります。
なぜ月をほっぽらかして火星に行こうとするのか?
近場のコンビニにすら行かない人が、アメリカに行って成功すると言い出しているような現況はなぜ起こるのか。今回は月面基地の可能性について探ります。
お金がかかる割になにもない星
月面へ行くというだけで莫大な資金が必要になりますが、月はあまりにもなにもない星であり、行ったところでおもしろみがほとんどありません。
かのアポロ計画ですら、現在の紙幣価値にしてトータルで1350億ドルもの費用がかかっています。日本円にすると13兆5000億円。
これは、日本人全員が支払う1年間の『消費税』を、すべて宇宙開発に投じてようやく実現するレベルの金額です。
日本の国家予算は95兆円ですが、『消費税』『所得税』『法人税』の三本柱が重要な財源となっていますので、13兆も『月』に支払う余裕がないのがわかりますね。
アメリカでも、何度も月面基地建造の計画が持ち上がっては消えている理由が、「お金がかかりすぎるんじゃないの?」というものです。
アポロ計画も20号まで行われる予定が17号までで打ち切りとなり、2004年にブッシュ大統領が「2024年には月面基地作るよ!」と言っていたものの、オバマ大統領により「やっぱりやめます」と発表されました。
月面基地には考えられないほどのお金がかかる上に魅力がない理由として、そもそも月は地球の分身であるという事情があります。
地球のかけらが月になった
地球の歴史をわかりやすく説明するために、地球を人間に例えてみましょう。
地球は誕生して46億年たちますが、これを人間の46歳と仮定します。
すると、地球の46年の人生の中で、最も衝撃的だったのは間違いなく『月の誕生』です。
地球が生まれて1億年後、つまり1歳の時に、火星くらいの超大型惑星が地球に衝突したのです。
これによって地球の表面は大きく削り取られ、そのかけらのうちいくつかは地球の重力につかまって、地球の周りをただようことになりました。このかけらがくっつきあってできたのが『月』です。
このような事情があるために、月はそれほど目新しい物質がたくさんあるような星ではありません。
ちなみに、月が出来たのは地球が1歳の時ですが、原始的な生命が誕生したのは6歳の時。それが進化して、ようやく恐竜のような形になったのが44歳の時です。
はっきり言って、地球にとっては生命なんて「進化遅すぎ!!」と言いたくなるレベルの存在でしょう。
46歳のラストになってようやく人間が誕生し、文明を作りますが、人間の進化スピードの速さには驚いているかもしれません。6歳から44歳までかけて、ようやく恐竜程度にしかなれなかった生命が、一瞬で知性を持ち、ブログで地球についてどうこう言う存在にまでなったのです。
しかしそれでも、火星クラスの惑星が1歳の時に衝突してきた体験にはかなわないでしょうね。
そして、地球のかけらが月なのですから、月は地球そのものであると言っても過言ではありません。
まだ謎は残されていますが、おおかたの研究が終わった今、また莫大な費用をかけて行く必要があるのかと考えられているわけです。
ちなみに、かつては月から得られる情報はとてつもなく大きいものでした。
古代ギリシア人などは非常に高い知性を持っており、月が月食で黒くなっていく姿を見て、「なぜ黒くなっていくのか? あれは我々が住んでいる場所の影がうつりこんでいるのではないか? だとすれば、もしかして我々が住んでいる地面は球体か?」と推測し、地球が丸いことを確信しています。
これらは紀元前4世紀の出来事であり、ろくな科学的施設もない状態でこのような推測まで至ったところに、彼らの知的水準の高さが伺えます。
この時の科学は、「地球を中心に太陽や月が回転しているのだろう」という幼いものでしたが、かつての月から人類が得られた科学は大きなものです。
そして、知れば知るほど、月はもう死んでいることが明らかになっていきました。
月は死の世界
かつて月には、火山活動があり、地球と同じようなマグマが燃えていたわけですが、それらももはや活動が止まり、静かな死の星となってしまっています。水分は南極あたりに凍りついているのみで使い物にはなりません。
一応月にも空気はありますが、人間が吸えるようなものではない上に、その薄さはなんと地球の10京分の1。
ストローでチョッ、と吸ったら周囲の空気すべて吸い尽くすほどに薄いです。
それほどに薄い空気ですから、太陽による熱と、宇宙の寒さから星を守ることができていません。
地球が昼も夜もちょうどいい温度なのは、空気が地球を守っており、太陽の熱があっても熱くなりすぎず、太陽が見えなくても寒くならないようにできているのです。
月はこれらの防御がまったくありませんから、いいように太陽に左右されます。
太陽が見える昼間の温度は、灼熱の110度。太陽が隠れる夜はマイナス170度。
昼はフライパンの上で焼き焦がされ、夜は地球上に存在しない寒さで凍らされます。地球上で観測された最低気温が、南極の89.2度ですから、ゆうにその2倍以上。
そして空気の防御がないということは、隕石などが衝突し放題ということです。
地球は強力な重力で多くの隕石を引き寄せ、なんと1秒間に400個以上の小さな隕石が、今も常に地球に衝突し続けています。
これらは大気圏衝突の際に燃え尽きたり、燃え尽きなかったとしても地球の7割は海ですから、海に落ちて事なきを得ているのです。
月はこのような大気がまったくないため、隕石の衝突をダイレクトに受け続けます。月面がクレーターだらけなのはこのためです。月面基地などはぼろぼろにされてしまうでしょう。
これほど過酷な月面に基地ができたとして、どうやって生活できるのか。これらの問題を解決するためには、莫大な資金と高度な技術力の開発が必要になりますが、そこまでして月に行くより、地球の中で発展したほうが人類は幸せではないのか?
これが月面基地開発を妨げている主な原因になります。
月面基地のメリット
それでも月面基地を作るとすればどのようなメリットがあるのか?
月に行くまでには莫大な費用がかかりますし、わずかな時間でとんぼ帰りすれば、十分な研究ができません。
もし月面基地を建設すれば、何度もロケットを発射することなく、月面での研究を行えます。
月面での重力は地球の6分の1という不思議な環境なので、新たな研究開発ができるのではとも言われています。
また、地球で増えすぎた人類の新たなる資源としても月は注目されており、月に豊富に含まれているレアメタルへの価値を見出す研究者もいます。
とはいえ、やはりどれほどのメリットを挙げても、莫大な開発費用を超えるほどの利益はないと言えるでしょう。
それならば、第2の地球になるかもしれない火星に対して投資したいというのが、宇宙開発においての世界的な主流になっています。
ですから人類は、身近な月はさておいて火星へ向かおうとしているのです。
火星に人は住めるのか
火星は太陽系でも、最も地球に似ている星ですので、かねてから第2の地球として利用できるのか議論されてきました。
月には生命が必要とする水素などが存在しないのですが、火星にはそれらの元素が存在することや、二酸化炭素が多いために、植物の生存が可能なのではないかと言われています。
まずはコケなどの生命力が強い植物を繁殖させ、酸素を増やし、惑星そのものを改造していけば、火星に移住することは可能なのではないか?という研究です。
しかし、そもそも火星の重力が3分の1しかないため、酸素を生み出したところで、それをつなぎ留めておくことが出来ず、あっというまに宇宙空間にばらまかれて終わるでしょう。
まさに地球は奇跡の惑星であり、生物がここまで快適に住めるような惑星は近隣に存在しません。
もう地球だけでいいじゃん、宇宙のことはいいじゃんという議論がよくなされるのも、宇宙のことを見るよりも地球にコストをかけたほうが現実的であるとされるためです。
宇宙に行くことは、人類にとって意味があることなのでしょうか?
宇宙に行くことで人間は進歩するのか
技術大国として進歩しているインドは、宇宙開発において世界でも有数の技術を持っています。
そして宇宙開発の中で得た技術を、自国のインフラにも活用している上に、インドの宇宙開発は貴重な外貨獲得源になっているため、政策としての宇宙開発を決して馬鹿には出来ない状態になっています。
もしも人類が火星に到達し、そこで研究開発を行えれば、ノーベル賞級の発見ができることは間違いないでしょう。
火星に到達するまでの研究開発だけでも、人類にさまざまな困難を現実に可能なものとさせ、間接的には生活を豊かにすることも間違いありません。
戦争は多くの悲劇を人類にもたらしましたが、戦争がなければインターネットは生まれず、今の人々の生活はないという事実もあります。
不思議なものですが、人類の歴史とはそういった矛盾の繰り返しです。
さらなる進化を求めて火星に行くべきなのか、行かざるべきなのか。この倫理的な問題には決着が着いていません。
火星に生物がいるかどうかは議論されていますが、環境的にも微生物くらいの生き物であれば存在する可能性があります。
しかし人類が到達して住むようになれば、間違いなく火星の生命の多くを破壊してしまうでしょう。人間が持ち込む風邪ひとつでも、火星の生命体にとっては未知なるウイルスであり、全滅させてしまう可能性もあります。もちろん火星の微生物も人類にとっては未知の存在であり、到達した人類が全滅させられる可能性もあるでしょう。
いまや人間は自然の進化の過程を超え、宇宙開発も遺伝子操作も含め、どうやって進化するかを選べるような存在になっています。
それでいながらスマートフォンすら平和的に活用できないようなモラルの低さがあり、このアンバランスさが、人類が抱えている大きな危険であるとも言えます。
人工知能もいずれは人間を超える時代になりましたが、科学の進歩スピードと同じく、人間のモラルもその成熟を求められています。