すべての漫画家・漫画家志望必見、天才編集者鳥嶋が語る漫画の極意とは

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『ドラゴンボール』などの数々のヒットを生み出し、多くの漫画家から「普通の編集者とは違う」と言われ愛され続けている鳥嶋和彦編集者。

彼は、

「少年ジャンプなんて嫌い」

「俺は出版社の上層部も信用していない」

「編集者の仕事はただ、漫画家のためになることだけ」

と言い切り、常識では考えられない行動を繰り返しながら、常にヒット作を飛ばし続けてきました。

少年ジャンプがマガジンに発行部数で負け、立て直しをしなければならない時に編集長として任命されたのが鳥嶋さんだったのですが、彼は前編集長からのすべての企画を打ち切り、『本当におもしろい漫画とは?』という原点に立ち返ったのです。

その結果生まれた、『ONE PIECE』『NARUTO』『HUNTER×HUNTER』などの作品で、再びジャンプは少年誌の頂点へと返り咲くことに。

現在63歳になる鳥嶋さんは、『花とゆめ』で知られる白泉社の編集長となり、『花とゆめ』の革命を期待されていますが、これほどまでに漫画界に影響を与えている鳥嶋さんが、漫画についての熱いインタビューを受けておられました。

何十年も最前線におり、常に結果を出している方だからこそ言える漫画を描く上での極意が、非常に身にしみるインタビューになっています。

今回は、超長文のインタビューの中から、漫画家や漫画家志望には必見の『漫画』に対するメッセージのみ抜粋し要約しました。

ビッグヒットを作るための秘訣とは

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まず、僕は作家のエリアには入らないんです。よくストーリー作りに参加している編集がいるけど、あんなのは二流の編集のやることだね。

そういう編集者が関わった作品はスマッシュヒットにはなっても、決してビッグヒットにはならない。

じゃあ、ビッグヒットを生む最大のコツは何か分かる?

簡単。「下手な鉄砲、数打ちゃ当たる」ですよ。
いかに作家に無駄弾を撃たせて、いかに何度もダメ出しをして、最後には作家に「自分は他人よりなにが優れているか」を悟らせるか、これに尽きるんだね。

編集の側から「こうすればいい」とサジェスチョンしても、結局は作家の身にならない。作家自身に自分で気づかせる以外にないんです。ということは、編集の仕事は短時間に的確にダメ出しを繰り返すことに尽きるんだよ。まあ、技術論のレベルでの指導もしていくわけだけどね。

ビッグヒットを作るためには大量生産し、その中で自分は何が優れているのかを考えていくのが、ヒットを生み出すためのコツとのこと。

大体において、現代で評価されている芸術家は、実はとてつもない量の作品を生産しており、数えきれないほどの大量の作品の中から名作が生まれています。

世界のクロサワこと黒澤明や、天才画家ピカソ、800作品以上の漫画を出版した手塚治虫、彼らの中で思い出せる作品名は数作でも、生涯で生み出した作品数は列挙することができないほどです。

天才ですら、数百、数千の作品の中で自分と向き合っていったわけですから、自分の価値を知るためには少ない作品数では足りないんですね。

まずはひたすら愚直にどんどん作っていく。少しでも少ない作品数で自分の力を知るために、編集者が客観的にアドバイスする。お手本のようなお話ですね。

『描きたいもの』と『描けるもの』

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作家には「描きたいもの」と「描けるもの」があるんだよ。そして、作家が「描きたいもの」は大体コピーなの。既製品の何かで、その人がそれまでの人生で憧れてきたものでしかない。

鳥山明さんであればアメコミっぽい作風だとか、そういうものが「描きたいもの」としてあったけど、そこからヒット作はやっぱり出てこないんです。実際、鳥山さん自身の「描きたいもの」は、申し訳ないけどつまらないんですよ(笑)。

そこに彼のボツの歴史があったんです。色々と彼はカッコいい絵柄の作品だとかを描いてきたけど、最後には「則巻千兵衛」というオッサンと「アラレちゃん」というメガネを掛けた女の子に行き着いた。でも、それこそが彼にしか描けないキャラクターだったんだね。そこに辿り着いたときに初めて、彼はヒット作家になった。

結局、ヒット作はその人の「描けるもの」からしか出てこないんです。それは作家の中にある価値観であり、その人間そのものと言ってもいい。これをいかに探させるかが大事で、そのために編集者は禅問答やカウンセリングのように色々なことを対話しながら、本人に気づかせていくんです。

すると、本人にしか出せないキャラクターが、まさに則巻千兵衛のようにポンと出てくる瞬間がある。ここにその作家の原点があるんだね。そして原点的なものは、まさに言葉本来の意味で「オリジン」(起源)なんです。「オリジナル」であることの真の意味とは、そういうことなんですよ。

『ONE PIECE』や『NARUTO』は、どちらの作者もそれぞれ、子どものころに描いた漫画が海賊漫画、忍者漫画だったそうです。これは鳥嶋さんの話とあながち無関係でもないと感じさせてしまいます。正にふたりの『起源』だったのではないでしょうか。

そして『ONE PIECE』も『NARUTO』も、「これが自分の漫画だ!」という非常に強い熱量を感じるので、少年漫画として本当に面白い。

また、作者の『描きたいもの』は大体コピーというのも興味深いお話です。

自分にしか描けないものを探すのはけわしい旅ですが、ヒットしている作品はどれも『他では読めない』というなにかがあるものばかりです。

漫画家の才能のすべてはたったひとつに尽きる

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ストーリー作りに時間をかけても、意味なんかないよ。大事なのはキャラクターだね。
そうね……言ってしまえば、「人間」を描けてるかどうかの一点に尽きるんだけどね。動物だろうが、ロボットだろうが、魔物だろうが、やっぱりキャラクターである以上は、本質的には“人間”なのよ。それがしっかりと描けていれば、「これは私だ」と読者に思わせられるんだよ。

「身近」に感じられるかどうかだね。

よく僕が新人漫画家に言うたとえ話があるんですよ――例えば、君が大好きだった女の子にデートの約束を取り付けて、その場所に急いでいたとする。そのとき、交通事故で倒れている人がいたら、どうするか。

知らない人だったら、きっと君は助けるかどうか迷うはず。

でも、それが自分の弟や妹、あるいは友達だったらどうするか。

たぶん、君は迷わず助けるんじゃないかな。そして、その君の判断は「身近」に思っているかどうかにかかっている。
「キャラクターを立てる」という事の本質は、ここに尽きるんだよ。キャラクターの「身近さ」を上手く作れているだけで、同じエピソードでも切迫度が一気に違う。

だから、ストーリーを作り込むことに血道を上げるのがいかに無駄かという話ですよ。その前に考えるべきは、身近に感じられる魅力的なキャラクターな んです。キャラクターさえしっかりしていれば、エピソードなんてどうとでもなる。というか、むしろエピソードなんて、そのキャラクターを際立たせるためのものでしかないんだよ。

たとえばミステリというジャンルで、なぜ『シャーロック・ホームズ』や『007』だけが売れ続けているのか。他にも面白いミステリはごまんとあったのに、彼らだけが何度も映画化されて、生き残っている理由は何なのか。しっかりと考えて、掘れば掘るほど結論は常にシンプルだね――答えは、強いキャラクターの存在にあるんですよ。

『ストーリーを作りこむことなんて無駄』という、おそろしい意見が飛び出しました。

強烈な極論という気もしますが、最後の『シャーロック・ホームズ』の例えは非常に面白いですね。探偵といえばまずシャーロック・ホームズしか思いつきません。

推理小説は研究と進歩をし続け、今となってはシャーロック・ホームズの小説は幼く、これを読んでトリックや推理に満足することはできなくなっているでしょう。

しかしそれでも彼が愛されているのは、彼の強烈なキャラクターにあります。

『推理のこととなると食事も忘れて没頭してしまい、とてつもなく深い知識を持っているが、自分に関係しないことはまったく知らない。なんと、太陽のまわりを地球がまわっているということさえも知らなかった。いつも退屈だと言いながら薬物で気を紛らわすも、推理をしている時だけは生き生きと輝いている。一見、理屈屋で冷たい男のようだが、実に紳士的で愛情深い男である…。』

シャーロック・ホームズが世の中に与えた影響は絶大で、探偵と聞いてホームズを思い出さない人は1人もいないと思います。

漫画の世界に限っても、『ドラゴンボール』で悟空がいない物語なんて考えられません。強烈なキャラクターは名作の条件なんですね。

漫画技術の基本と、読者という厳しさ

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世の中には「読みやすい漫画」と「読みにくい漫画」があるということね。

漫画の技術というのは、基本的には全て分かりやすさから来てるんですよ。

片っ端から漫画を読んでいくと、明らかに「読みやすい漫画」と「読みにくい漫画」があるのがわかってくるのね。そこで次に僕は「読みにくい漫画」をどんどん弾いていって、さらに「読みやすい漫画」の中でも特に読みやすいものを残していったんです。すると最後に残ったのが、ちばてつやさんの『おれは鉄兵』だったんですよ。

そこで僕は、あの漫画の第1話19ページの全てのコマについて、なぜこのコマ割りで、なぜこのアングルなのかを50回読み返して、自分の中で分析しながら読んでいくことを課したんです。

するとね、コマ割りという手法の意味がやっと分かったんですよ。しかも、それを新人漫画家の指導に応用してみると、もうみるみる上手になっていくのね。

たぶん手塚治虫と比較すると分かりやすいんだよね。一言で言うと、手塚さんのコマ割りはストーリー展開の「理屈」に沿ってるけど、ちばてつやのそれは読者の「感情」に沿ってるんだよ。

ちばてつやさんの原点は、満州にいた辛い時期に弟たちの気持ちを紛らわすために、紙芝居みたいな漫画を描いて見せていたことにあるらしいんですね。だから、子供でも読みやすい表現がとにかく抜群に上手い。僕の基礎は『おれは鉄兵』の、特に最初の方を徹底的に何度も読み返したことから出来ているんです。

漫画の歴史において手塚治虫さんとちばてつやさんは「別格」。それは僕の中ではかなり確信を持って言えることですね。鳥山明さんだって、あくまでもそうした作家たちの積み重ねの上に成立した、“偉大なるアレンジャー”でしかない。実際、『Dr.スランプ』は『ドラえもん』と『鉄腕アトム』、『ドラゴンボール』は『里見八犬伝』と『未来少年コナン』の変形でしょ。

(技術的な指導をする漫画編集者は)周囲を見渡してみると、ほとんどいなかったですよ。他の編集者が言っているのは、僕に言わせれば「感想」ですね。そんなのは小学生でも言える。

漫画はやっぱり構成だから、絵と台詞を組み合わせて表現するとはどういうことか、アングルとは何か、コマ割りとは何か、そういうことを徹底的に作り手の側が理解していないとダメなんです。

しかも恐ろしいことに読者は、それがちゃんと出来てるかを瞬時に判断してきて、その結果の感想が「読みにくいな」なんだよね。

だから、僕は漫画の打ち合わせは30分で終えるんです。それ以上の時間の打ち合わせには意味がない。作家の絵コンテも2回しか読まない。最初の1回で全て頭に入れて、次にどこが具体的にマズいかを作家に説明するときが2回め。

それで充分なんですよ。なぜなら、読者という存在はそれだけ厳しいから。彼らがページをめくる手を止めたら、もうそれでおしまい。その漫画にはそもそも構成に難がある。編集者はそういう「読者目線」をいかに持つかが大事なんです。

これも非常に深い話です。

読者は確かに、飛ばし読みをしているようでも、読みにくいか読みやすいかを瞬間的に理解して、その上で雑誌から漫画を読みとばしていると思います。『飛ばすことには理由』があり、それを技術的に理解できなければ、編集者として価値はないというお話です。

もしもそんな編集者が周りにいなければ、自分でわかりやすさを追求していくしかないでしょう。

ぼくが個人的に一番「わかりやすい」と思う漫画は、藤子不二雄先生の『ドラえもん』や、横山光輝先生の『三国志』などですが、信じられないほど頭に入ってきやすくて、読めば読むほど脳に直接注入されたのかと疑ってしまうくらいです。

漫画のコマ割りに関する技術論は数多くなされていますが、鳥嶋式もぜひ詳しく知りたいですね。

読者については更に語られているお話があります。

読者は知っている

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僕はジャンプは大嫌いだからね(笑)。

(さくまあきらさんが、「ジャンプで“王道”を学んだ」という話に)「王道」なんてあるわけないじゃん。強いて言えば、そのとき流行ってるものが「王道」だよ。『バクマン』でもそんな話をしていたけど、あの作品は本当に世間に良くない影響を与えてると思うね(笑)。

「友情・努力・勝利」とか全く無意味ですね。あんなのはバカが言うことですよ。

もっと正確に言うと、「友情」と「勝利」は正しいんです。でも、「努力」は子どもは大嫌いなんです。実際、昔アンケートをしっかりと取った結果は「友情・勝利・健康」だったんだから(笑)。

まあ「健康」に関しては、さすがにその時代の雰囲気だろうから、今は違うとは思うけどね。

だから、『ドラゴンボール』では「努力」はさせなかったんですよ。「修行しました」とは言うよ、でもあくまでも結果で見せていく。だって、「滝に打たれて修行する」とか、そんなバカな話が現実には意味ないことくらい、そりゃ今の子供は知ってるよ。そういうリアリティは普通に生きていれば、この情報時代に絶対にキャッチするからね。

そういう子供が敏感に感じ取れてしまうところで嘘をついたら、おしまいなんです。
だから、『ドラゴンボール』でも戦闘シーンは、徹底的にアクションを本格的につくったんだよね。逆に子供にそういう部分で「本当だ!」と思わせちゃえば、あとはもうどんな嘘でも受け入れてくれる。

子供をナメちゃいけない

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子供は本当に正直なんだよ。例えば、大人は「子供はどうせ世の中の理不尽さなんて知らないだろう」と思ってしまいがちじゃない。大間違いだね。

だって、そんなのは学校のクラスを見渡せば分かることだよ。一番モテるのは、結局は頭が良いやつ、テストができるやつだよ。先生からも同級生からも一目置かれるよね。で、次はスポーツができるやつでしょ。カッコいいよね、運動会のヒーローだ。そして顔が良ければ、女の子にもモテる。

じゃあさ、その全てがない子はどうしたらいいの? 「努力」なんかじゃどうにもならない現実があることくらい、子供は小さい頃からイヤというほど知ってるよ。

もちろん、漫画というメディアは、そういう子供たちを励ますものとして発展してきたんですよ。でも、そのときに「滝に打たれて修行すれば強くなれます!」 みたいなうさん臭い「努力」の物語なんかじゃ、そんな子供たちを励ますことはできない。子供をナメちゃいけないんです。

大人になると、人間は色んなことを経験して、自分の判断を曇らせていくんですよ。その方が生きていく上で、楽だからね。

だけど、子供は違う。最も感性が鋭くて、あらゆる物事をピュアに感じられるのが、子供時代なんです。ところが、それなのに彼らはお金もなければ、学校にも行かなきゃいけない。先生と親にも従わなきゃいけない。でもね、そうやって現実で虐げられているからこそ、彼らは二次元の世界に対して鋭敏な感受性を持つんだね。

実際、『ドラゴンボール』なんて、そういう世界観で出来ているでしょ。

世界が平和だなんて大嘘で、たとえピッコロ大魔王や魔人ブウが出てきても、国連は何の役にも立たない。そして、悟空がスーパーサイヤ人になるのは、何かの大義のためじゃなくて、一番の友人だったクリリンが死んだとき――こういう話に怒る大人もいるかもしれないけど、これこそが自分たちのリアリティだとして子供は受け取るんだと、僕は思う。

そして子供は、そういう部分に関しては驚くほど正確に、大人たちの言うウソを見抜いてくるんです。

日本の絵本作家の開祖は武井武雄さんだと言われているのですが、彼が残した言葉に、『子どもにこそ最高の芸術作品を』というものがあります。

絵本もほとんどなかった時代、子ども向けなんて雑な絵で十分とされていたものを、『子どもにこそ最高のものを与えるべき』と訴え、子ども向け作品に初めて芸術としての感覚を持ち込んだ人として尊敬しているのですが、その言葉の重さは今も昔もまったく変わりませんね。

子どもの感覚は非常に優れており、なめてとりかかってしまえば、必ずそのことを見ぬかれてしまいます。大人になったからこそ、子どもの感覚と真摯に向き合うことが重要です。

なぜなら、ぼくたちは、子ども時代に真摯に向き合ってくれた大人の作品で成長してきたからです。

編集者は漫画家を稼がせるのが仕事

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僕は、「この人は才能がないな」と思ったらそのことは強めに伝えて、それで終わりにしている。
厳しいと言われるかもしれないけど、別に漫画だけが人生じゃないんだから。漫画がダメでも他の才能で豊かに生きていける可能性なんていくらでもある。なのに、なまじ才能がないのにしがみつくのは不幸だよ。まあ自分でも、わざわざそういうことを本人に言うのは、実にお節介だとは思うけどね。

なぜ僕がこんなに金にこだわるのか不思議に思ってるんじゃない?

それはね、作家の才能の寿命は短いからだよ。

作品を続けてヒットさせることなんて、ほぼ不可能。そして、どんな漫画家でも10年活躍すれば、第一線での人気の賞味期限はやってくる。

だからこそ、僕たちは作家に1円でも多く返さなきゃいけないんです。もし作家の預金通帳にお金がちゃんとあれば、彼らは嫌な仕事をする必要がなくなる。次の作品を練るべきときに、焦って変な仕事だってしなくていい。

これも強烈な言葉で、読んだ時驚かされました。

大変現実的で厳しいお話です。しかし、鳥嶋さんの作家への愛情を感じさせる話でもあり、編集者として非常に真摯に作家と向き合っていることが伝わってきます。

残酷ですが、これこそが裏のない漫画界の事実でしょう。

僕がサンデーの編集長なら

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(雑誌の定義という意味で)ダメなのが、『週刊少年サンデー』だね。
なんとなくサンデーっぽいカラーはあるけど、それを定義できているわけではないよね。あの編集部にヒット作の再現性がないのは、それが理由なんだよ。

だから以前、友人がサンデーの編集長だったときに、「お前だったらサンデーをどう立て直す?」と聞かれたとき、僕は真っ先に「まずは高橋留美子とあだち充を連載陣から外すね」と答えたんですよ。
週刊誌の連載はライブだからね。ジャンプにも連載が長期化している漫画があるけど、危険だね。編集部が実にイージーな作り方をしていると思うよ。
それに、どんなに新連載をやっても、作家が同じ顔ぶれではパチンコ屋の新装開店と変わらないんだよ。新しいことをやるなら、人間ごと取り替えなければいけない。それで新しい作家をどんどん出して、自分たちのカラーを定義していくべきなんだよ。

これまた、高橋留美子先生が好きなぼくにとっては衝撃的な発言でした。

また、少年ジャンプでも長期連載の『こち亀』など多数の作品がありますが、それにあたっても快く思っていないようです。個人的には『こち亀』はアンケート関係なく続けて欲しいのですが…。

ただ、週刊誌とはライブであり、長期連載が危険であるという話は、なんとなくわかるような気がします。

毎週読んでいる雑誌にはあまり感じないのですが、最近読んでいなかった雑誌を久しぶりに読んでみた時、載っているメンバーがほとんど一緒だと、「今もこんな感じなのか」と思ってしまうことは否めません。

新しいものを求めて読者が雑誌を手に取っている以上、昔と違うものが載っていて当たり前、ライブというのはそういうことでしょう。

長期連載は、好きな漫画を長く読めて嬉しいという面がありますが、はたから眺めている人にとっては、「またいつもと同じ」というマンネリにも繋がり、漫画の長さはどこが最適なのかということについても考えさせられます。

ぼくが愛してやまない『ジョジョ』も長期化し、ファン以外にとってはマンネリ感が強かったらしいですが、途中で少年ジャンプからウルトラジャンプに移ったことで、逆に表現できることの幅が増え、ファンにとっては嬉しい結果になりました。

現在は漫画の選択肢が増え、長期化するなら、ファンごと青年誌に行くという選択肢もあるわけです。

そして、週刊誌は常にライブで新しく、新人を育て続けていくというのが鳥嶋さんの持論ですね。新人こそが漫画界の未来であるわけですし、今ベテランと言われている人たちも新人として育てられて世に出たわけですから、これはまっとうな意見ではあります。

インターネットからクリエイティブな作品は生まれない

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申し訳ないけど、僕はネットから何かクリエイティブなものが生まれることはないと思う。会社でも、「コンテンツの生まれる場所としては、相手にしなくていい」と言ってるしね。

コンテンツが生まれるときに、クローズドな環境であることと、有料の場であることは欠かせないんですよ。でも、インターネットにはその両方がないじゃない。

だって、インターネットのそもそもの始まりは、軍需産業や図書館、大学の研究室みたいなところにあるわけでしょ。そこには市場の発想がないんです。無論、そういう出自のテクノロジーだから、何かを共有したり拡散したりするのには素晴らしく向いている。
でも、ここから何か本当に新しいコンテンツが成功して、生まれてきた事例なんてないでしょう。

別に僕は、インターネットがなにか既存のものを組み合わせたり、広めていくのに向いていることは否定していないんです。いや、むしろどんどん使うべきだとさえ思っているんですよ。

でも、何か創造的なものを生み出すためには、作家をクローズドな環境において、徹底的に絞っていく作業が欠かせない。その時点でネットは無理がある上に、 基本的には無料でしょう。有料で値付けされていないと、受け手が真剣に身構えないんです。気軽にだらだらと受け手が見るような場所では、なかなか作家は育たないね。

そもそもインターネットのような場所は昔からあって、例えばコミケがそうでしょう。でも、あそこから本当の才能が飛び出してきた試しなんてないじゃない。結局、そういう場所では作家が「描きたいもの」ばかりが溢れてくるんですよ。

君たちの世代にはインターネットが最初なんだろうけど、僕くらい長くやっていると、なにか新しいメディアが出てくるたびに、必ず同じことを言い出す人が登場するんだよ。でも、結果は毎回一緒。正直なところ、これは「いつか来た道」でしかないね。

これは、インターネット界から相当な反発がきそうな発言です。

ネット発の漫画作品が増えていることから考えると、あながちそうとも言い切れないとは思うのですが、有料で値付けされていないと受け手が真剣に身構えない、それは作家を育てないというところは興味深いです。

スマホの無料漫画を読む時と、本屋さんで買ってきた漫画を読む時とでは、確かにぼくたちの感覚はまったく違いますね。

これはフリーランス業でよく言われることなのですが、「値引きします、安くします」と言ってしまうフリーランスクリエイターはダメなのだそうです。

「これだけのお金をいただきますが、それに見合うだけの作品をあなたに提供しますよ」

「お金をもらうのだから絶対に満足させてみせますよ」

という、お金に対する責任を背負うところから初めて技術が生まれてくるのであり、安いから、値引きしているから、果ては無料だからという理由で技術を育てず、お金への責任と向き合っていないと、フリーランスとしては続けられないということがよく言われています。

そういう意味で、さまざまな責任と毎週向き合い続ける週刊漫画家が、インターネットより早く成長するのは当たり前のことだとも言えるでしょう。

ただ、最近はネット上でも多くの環境が整ってきており、漫画を読む形はどんどん変わってきています。いつしか鳥嶋さんも納得するような創作環境が整う時がくるかも知れません。

編集者とクローズドの世界

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まあ、ものづくりにおいて編集者は絶対に必要なんですよ。

でも、編集なんて10人入ったらまともなのは2人育てばいいくらいなんだけどね。ただ、1人でも良い編集を育てれば、10人は作家が育つ。だから一見遠回りに見えるけど、編集者を育てるのが大事。まあ、それも失敗を繰り返させるしかないので、その資本力と機会が必要なんだけども。

だから、「良い編集者」っていうのは、とても貴重なんですよ。その仕事ぶりが世間から見えることは少ないから、なかなか理解されづらいかもしれないけどね。

そもそも編集の仕事がなにかといえば、カッコいい言い方をすると「愛するが故に厳しく」なんですよ。作家に厳しくできるのだって、やっぱりその人間の才能を愛しているからなんだね。逆に言うと、愛することが出来ない才能に対しては、どうでもいいから厳しくなんてできない。だから僕なんかは付き合う人を選んでしまうんだけどね。

僕は自分の経験から、創造の奇跡というのは常にクローズドになって、個人の力が発揮される瞬間に生まれると思ってる。申し訳ないけど、チームワークからそんなものが出てきたことはないね。ゲーム業界も、本当に面白いものが出てくる状況に戻りたければ、昔のように少人数で制作できる体制になる必要があるんじゃないかな。

スポーツはチーム戦であり、チームワークというものは欠かせない要素のひとつでもあります。

しかし創作や芸術はまったく逆で、人が集まるからいいものができるというわけではないですし、映画作品などは多くのスポンサーなどの意向がよってたかって集められた結果、まるで駄作という仕上がりになってしまったものまであります。

芸術作品とは、閉鎖的な空間で、個人の力をより多く発揮したところから奇跡が生まれる。

これは芸術というものの本質でもあり、ぼくたちが感動した芸術作品の多くも、チームワークから生まれたものではなく、芸術家が表現せずにはいられない自分のかけらを切り取ったようなケースが多いはず。

そういった作品がおもしろいのも当たり前であり、ゲーム業界なども、現在はさまざまなお金儲けの思想があわさった『娯楽エンターテイメント』になっていますが、少人数でやりたいことを自由に表現した過去のゲームのほうが、本質的におもしろいというのは的を得ているでしょう。

芸術がおもしろいのは、個人の強烈な叫びが入っているからに他なりません。

最も大切なのは好奇心

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編集者に大事なのは「好奇心」なんですよ。僕は、本当はあまり他人に興味がない人間なんだけど、やっぱり一番最初にすごいものを見たいという思いは強いんだよね。

でね、新しい才能の作家は、常に評判が悪いんです。
床屋に行って髪型を変えたら、必ず最初は「なにそれ?」と言われるでしょ。髪を切る程度でもそんなことを言われるわけで、そりゃ新しい作品にはとてつもなく厳しいコメントを人間は投げつけてくる。でも、そういう否定的な意見は割りきって、まず稀なものを面白がることですよ。
そうして奇抜な才能を愛して、厳しく育てていくんです。だって、「奇なるものを好む心」が「好奇心」なんだからね。

最後のセリフは勇気を与えてくれますね。

失敗を恐れずに作っていくことが創作者にとって最も大切なことです。

また、新しい作品は常に世の中に受け入れられず、厳しい意見をもらいますが、そんな新しい作品たちがムーブメントとなって、次の時代を作っていきます。

その新しい尖った感性は、原液のままでは他人が飲むことができないほど濃い。

世間に受け入れられるために、濃すぎるカルピスの原液を薄めていく作業が必要だと、鳥嶋さんはコメントしていました。

いつしか失敗ができず評判が優先する日本になってきましたが、人間は誰しも失敗しますし、努力しても評判の悪い作品もある。それは当たり前のことなんです。

ひとつの失敗で人間が終わってしまうことは決してありません。ただの成長のためのステップであるはずです。

大量生産からしか名作は生まれないと信じ、失敗を恐れず、まずは面白がって作品を作ることが、創作者にとって何よりも大切なことですね。

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